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最相葉月コラム/課題棚上げしたクローン法案
最終更新日 2004.03.02


課題棚上げした
クローン法案
最相葉月
2000.05.04 東京朝刊 9頁 オピニオンより転載


課題棚上げしたクローン法案

 はじめにボタンのかけ違いがあった。だが、先を急ぐ必要があり、かけ違いを知りつつボタンをとめていったところ、最後にやはりその不都合を思い知らされた。慎重な審議が必要だとして、今国会での成立が困難となった「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」案は、そんな印象を与える。

 法案作成までに審議を行った科学技術会議の生命倫理委員会には、二つの考え方があった。一つは、一刻も早くクローン人間の誕生を法律で禁止せよとする。もう一つは、クローン人間だけを禁止しても日々進展する生命操作に対応できないため、生殖医療全体をカバーする法の中で禁止すべきだという意見である。結局、省庁間や産婦人科領域との調整に手間どる後者は退けられ、緊急性を理由に前者で進められることになった。

 技術を手にした以上、生命操作に究極の歯止めを示す意味は大きい。だが、科学技術庁が作成した法案は、生命倫理委員会の報告書を大きく逸脱しているように思えた。

 法案は、たんにクローン人間の誕生を禁止しただけではない。人間と人間、人間と動物の間で行われる、科学者すら思い浮かべないあらゆる核移植や細胞の融合を想定して「特定胚(はい)」と名づけ、子宮への移植を禁止するものだけを刑罰の対象とし、禁止しないものは、取り扱いの判断をすべて指針にゆだねたのだ。

 だが、その指針が存在しない。いつ、だれによって作成されるのかも発表されていない。クローン人間禁止法がまるで、クローン人間さえ作らなければなんでもできると解釈されかねない、不可解なものになってしまっている。

 たとえば、もし「特定胚」を作ったり、譲渡したり、輸入する場合は文部科学大臣に届け出て指針に従えとある。逆にいえば、子宮に移植しない限りは指針に従えばよく、その指針が示されない以上、人間と動物の間で交雑や核移植する実験が禁止される保証はない。昨年発覚した東京農大の実験のように、人間の核を牛の卵に移植する研究も認められる可能性がある。

 一月に生命倫理委員会が行った世論調査では、受精卵も人として尊重すべきだとする回答が三割に達したという。たとえ人とみなさずとも、自分たちの受精卵の核が動物の卵に移植されることに抵抗を感じる人は多いだろう。第一、受精卵をどうやって入手するのか。現在は不妊治療の研究に限って善意で提供されているが、動物に移植されるなら、これまでと同じ感覚では行えないだろう。それ以前にそんな研究に科学的な意味があるのか、情報公開はまったくされていない。

 また、子宮への移植を禁止していない「特定胚」のうち、牛で行われている受精卵を分割した胚や、核を除いた未受精卵に受精卵の核を移植する胚は、生命倫理委員会は直ちに認められないとし、議論は持ち越されたはずだ。

 つまり、法律を補完する指針が同時に提示されて初めて規制の意味が明確になるのであって、今のままではたんに問題の先送り。人の尊厳を守る法律のはずが、生命の始まりである卵や精子が果たして大切に扱われるのか、不安をかき立てられるほどなのだ。

 一方で、科技庁はこの夏、ES細胞研究を認める指針を発表する。ES細胞とは、分割途中の受精卵を壊して採取する細胞で、将来、神経細胞や心筋、臓器に成長し、マウスでは個体も作製された。一昨年に米ベンチャー企業が培養に成功し、臓器移植をターゲットに商業化をめぐる競争が加速している。「特定胚」と同様、人間の受精卵を利用する研究にもかかわらず、商業化を背景としたものは急ぎ成立させ、クローン法案を受ける指針は審議委員も決まっていないとは、どういうことなのか。

 結局、クローン人間の誕生だけを禁止しようとしてわかったのは、受精卵の入手から罰則まで、ほかの生殖技術との調整なしには考えられないことだ。国民は次々と現れる生命操作に対応できる抜本的な体制づくりを願っている。一刻も早いボタンのかけ直しを。

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