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最相葉月
2002年4月11日、拙著『絶対音感』に関する著作権訴訟に判決が言い渡されました。同判決は、重要部分で一審の東京地裁判決と「見解を異にする」としており、上記単行本の引用を「目的上正当な範囲内で行われたものと評価」しています。この点からも、同判決は単に一審判決を支持したものではないと認識できると考えられます。
しかし、各紙からは一切取材がないままにすでに共同通信を通じて「無断引用」というタイトルで全国に配信されたため、日本経済新聞ほか夕刊各紙で誤解を招く報道がありました。(この点は共同通信に抗議した結果、夕刻に訂正記事が配信されました)
以下に、高裁判決について小学館と最相が認識する点をまとめましたので、ぜひともご理解いただければ幸いでございます。
--------『絶対音感』裁判について--------
平成14年4月11日
株式会社 小 学 館
最相葉月
本日、東京高等裁判所は、小学館発行のノンフィクション作品「絶対音感」(著者 最相葉月)中に、アメリカの著名な指揮者・作曲家故レナード・バーンスタインが自ら書き下ろした舞台用台本を用いて1958年に行ったコンサートが、日本語上演される際に翻訳された日本語版台本の一部を採録したことについて、翻訳者が、小学館及び著者に対し、著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害するものとして、損害賠償を求めた裁判の控訴審判決を言い渡しました(東京高等裁判所平成13年(ネ)第3677号・第5920号)。
本件訴訟において、第1審・控訴審を通じて、主たる争点となっていたのは、複製権侵害の成否(1.著作権法32条1項の定める適法な引用の要件は何か。2.本件は、適法な引用の要件をみたすか。)についてでありました。
本判決は、複製権侵害の成立については、肯定しましたが、その判断理由の中で、小学館及び著者が一貫して主張してきたとおり、引用目的上正当な範囲内で行われたものであることを明確に認め、原判決の誤りを指摘した点において、画期的な内容となっています。
本判決の判断理由の要旨は、次のとおりです。
1. 著作権法32条1項の定める適法な引用の要件は何か(本判決23頁以下)。
同条同項を根拠として、著作権者の許諾を得ることなく自己の著作物に含ませて利用するためには、次の3要件を満たすことが必要である。
当該利用が、
1) 引用に当たること(引用著作物と被引用著作物が明瞭に区別されていること)
2)公正な慣行に合致するものであること(明瞭区別性に加え、出所明示も公正な慣行の評価に影響する)
3)報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものであること
2. 本件は、上記3要件を満たすか。
1) 本件利用部分は、括弧で区分され、他の部分と明瞭に区別されているから、「引用」にあたることは、明らかである。よって、1)の要件は満たす。
2)本件利用部分の前後の本文及び参考文献欄に、バーンスタインの台本の日本語上演用の翻訳版であることの記述及びバーンスタインの上演のビデオについての表記はあるが、翻訳者名及び本件翻訳台本の表示はなく、出所明示として不十分である。本件採録方法は、明瞭区別性は認められるが、出所の明示が不十分であり、よって、公正な慣行に合致するものとはいえず、2)の要件を欠く。
3)本件書籍の「音楽とは何か」「人間とは何か」という最終的なテーマと密接に関連し、同テーマについての記述の説得力を増すための資料として、著名な指揮者・作曲家の見解を引用、紹介したものであるということができ、かつ引用した範囲、分量も本件書籍全体と比較して殊更に多いとはいえないから、本件引用は、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと評価することができる。よって、3)の要件は満たす。原判決は、3)の要件を欠くとして、複製権侵害を認めたが、この点において、見解を異にする。
著作権法32条1項の適法な引用の要件については、従来の裁判例は、「明瞭区別性」「主従関係」という2つの判断基準を用い、かつ「主従関係」は、引用の目的、両著作物の性質、内容及び分量並びに被引用著作物の採録の方法、態様などの諸点にわたって確定した事実関係に基づき判断すべきものとしていました。
原判決は、従来用いられた「明瞭区別性」「主従関係」という2要件に基づく判断を行わず、判断要素となる項目を唐突に列記したうえ、本件に関する事実関係の当てはめを全く行わないまま、適法な引用とは認められないとし、複製権侵害を認めるものでした。
原判決によれば、適法な引用として、他の著作物の採録が著作権者の許諾を要することなく無償で利用できる範囲があまりにも不明確であり、引用についての過度な制約につながる危険があるため、小学館及び著者は控訴提起をしたものです。
これに対し、本判決は、著作権法32条1項の定める要件解釈を明確化し、そのうえで、本件引用が、引用の目的上正当な範囲内であるという小学館及び著者の主張を全面的に認め、原判決の判断の重大な誤りを指摘した点において大きな意義があるものと考えております。
本判決により、出所の明示方法について配慮すれば、許諾なく利用できることが明確となったことについて、小学館及び著者・最相葉月は、裁判所の判断を是とし納得いたします。