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最相葉月の「なんでやねん日記」
最終更新日 2002.05.13

2002年5月13日(火)――その18
『絶対音感』著作権裁判の高裁判決は確定しました...

4月11日の新聞各紙でご承知のことと存じますが、拙著『絶対音感』にバーンスタインの台本を引用したことをめぐる著作権裁判では多くの方にご心配をおかけいたしました。このたび東京高裁判決が確定いたしましたので、ご報告いたします。

本裁判は2000年2月、すでに拙著が15刷35万部となったころ、台本の上演権をもつバーンスタインの日本総代理から依頼を受けて翻訳した人から、ほかの文献の翻訳者名はあるのに自分の名前だけがない、と巨額の賠償金を要求されたことから事態が始まりました。こちらは取材過程でバーンスタインの日本総代理のご厚意から参考文献としてワープロ打ちの草案段階のものを受け取ったのですが、それは表紙も翻訳者名の記載もなかったものでしたからまったく悪意はありませんでした。しかし、調べれば知り得たのは確かです。おわびの手紙をそえて次の版からは翻訳者名を明記するとお答えしました。ただ、金額については過去の著作権でも考えられない950万円という法外なものだったために、たとえ自分の名前が表沙汰になるとしても、そのような要求に応じることはできないとお断わりした結果、裁判となったのでした。

しかし、2001年6月の東京地裁における一審判決ではリリースでお示ししたとおり、引用の要件について大変不可解であいまいな判断が示されました。それは、この引用は主題に関わるもので引用量も適当とはいえず、著作権侵害にあたるとするものでした。これには納得できませんでした。なぜなら、著者以外のだれがその引用を主題に関わると決め、著者以外のだれが適切な引用量を決めるのでしょうか。裁判所でしょうか。今後引用をしなければならない場合は、いちいちそのたびに許諾をとって、引用はたとえば○ページ以内におさめなければならないのでしょうか。もし批判することを目的に引用した場合、その相手に許諾を得ることなどできるでしょうか。

表現活動の重要な問題にかかわることをこうしたあいまいな基準で定義されることは大変危険なことだと思いました。しかも、裁判所が拙著を読んで主題を理解したとは到底思えません。なぜなら、一審の判決文には「週刊ポスト」を「週間ポスト」と書くような誤字脱字もいくつか散見されましたし、法的な要件のあてはめも大変いい加減なものでした。

そのような問題の多い判決に、新たな問題が重なりました。新聞各社は、一斉に「無断引用」という誤解をもたらす表現で報道し、一方的な不法行為があったかのように書きたてました。引用とは、著作権法における要件を備えれば無断でできるから引用です。私は、地の文に参考文献名もなく無断で他人の文章を紛れ込ませるような剽窃をしたわけではありません。拙著をご覧いただければ明らかですが、引用した経緯と日本総代理の名を直前に記し、バーンスタインの公演名と期日を記し、ここからは引用であると行をあけ、「 」でくくり、明確に地の文とは分けています。水面下で示談交渉していることならともかく、これは未来に影響を与える公的な裁判です。なぜ何が争われているのかを知ろうとしないのでしょうか。

私が高裁へ控訴したのは、こうした引用の要件をめぐるいい加減な東京地裁判決を放置することができなかったからです。翻訳者には一番最初に手紙が届いたときに謝罪していますし、引用文献に翻訳者名を書かなくてもいいなどとははじめから思っていません。拙著の参考文献欄をご覧いただければわかるように、文献データを明記することについて、私はかなり注意を払っているつもりです。

そして、今年4月11日の高裁判決は、著作権法の引用要件に関する一審判決の誤りを正す重要な判決となったのです。それがリリースで説明したもので、私が一貫して主張してきた引用をめぐる一審判決の問題点が指摘され、主張が全面的に認められました。しかし、控訴棄却となったのは、翻訳台本の正式な名前と翻訳者の名前がないこと、つまり、バーンスタインの公演名と翻訳の経緯を記すだけでは、翻訳者との関係においては出典の表示が不十分だということなのです。たとえ草稿段階の表紙なし、翻訳者名なしの台本でも調べればわかったのは確かでしょう。これは、著作権法のなかの著作者人格権である氏名表示権侵害と呼ばれるものですが、もとより翻訳者の権利を侵害する気持ちなどまったくない私は、これを欠いたことで氏名表示権のみならず著作権侵害もあるとする著作権史上初めての裁判所の見解を受け入れることにしました。といいますか、はじめからこの点は争う気持ちなどありませんでした。つまり、この判決によって、「翻訳者名がなければ著作権侵害になることもある」という裁判例ができたことになります。

これについては何人かの編集者から、納得できない判決だという感想が寄せられましたが、私はこれを不服とはしません。翻訳者の権利が守られるのは当然のことだと理解しています。引用部分に翻訳者の名前の書かれていない書物、報道記事は世の中に数多くあると思いますが、今後はより一層注意を払う必要があるでしょう。なお、この裁判によって拙著の回収や絶版、販売中止などは一切ございませんし、裁判費用はそれぞれの負担です。

しかし、ここでまたやっかいな問題が発生しました。4月11日昼の共同通信の誤報を発端として日経新聞ほか全国紙にまたもや「無断引用」という誤ったタイトルの記事が流されたのです。このタイトルのまま夕刊紙から全国紙、ネットニュースにまでばらまかれたのですからたまったものではありません。ひとたびネットに掲載されたらどんな間違った情報でも一瞬のうちに広がるインターネットの恐ろしさを痛感いたしました。残念ながら、朝日と読売も判決文を読んだとは思えない誤解を招く報道でした。署名記事を書かれるためか、毎日新聞だけがかろうじて公平な表現だったでしょうか。共同通信には抗議した結果、これを誤りと認め新たな私のコメントとともに記事を配信しましたが、「無断引用」という表現の訂正はありませんでした。

さらに日本経済新聞は4月16日朝刊のネット掲示板の著作権裁判報道において、「安易な引用、複製に警鐘」とのタイトルで拙著に言及し「引用の許諾や翻訳者名も明示しなかったベストセラー」と表現しました。ここにも「許諾」を得なかったことが問題であるとする誤りがあります。判決文を読んでいないことは明らかです。このたび私と出版社に賠償責任が問われたのは翻訳者名を明記しなかったことのみであって、許諾を得なかったことではありません。しかも、ネット著作権の裁判とは無関係で争点もまったく異なります。おそらく直近の著作権裁判だったから思わず言及してしまったのでしょう。これこそ「安易な」報道ではないかと思いましたが、いかがでしょうか。

著作権法における引用要件はノンフィクションのみならず新聞報道、評論や小説、学術論文、インターネット上のホームページなどすべての表現活動にかかわる問題です。もしかしたら自分たちの表現活動を一審判決が判例として制限してしまった可能性だってあるのに、著作権裁判で何が争われ、このたびの高裁判決で私が一審の何を覆したのかに注意を払えなかった記者の方々には本当に失望しました。

このような説明は弁解のように思われる方がおられるかもしれませんが、個人情報保護法案が問題となるなか、著作権法という表現活動に関わる公的な問題を含むものであるためここで説明させていただきました。メディアで失ったものはメディアで取り返すしかありません。仕事し続けるのみです。

以上、LNET読者の皆様への報告書とさせていただきます。LNET冒頭スペースをプレスリリース公開のために使用することに同意してくださったLNET編集長・長澤智子ほかスタッフ、専門家サポーターのみなさまには心より御礼を申し上げます。また、各方面より心温まるご支援とご理解のお言葉も多数いただきました。とくに私の母校である関西学院大学法学部時代の同級生や先生方が共に裁判の中身を具体的に検討し、一審判決の疑問点を提示し、応援してくださっていたことは心の支えとなりました。本当にありがとうございました。

なお、判決後の最高裁への上告申出期間を過ぎ、『絶対音感』著作権裁判の高裁判決は確定しました。判決文は最高裁判所の公式ホームページで、いつでもどなたでも読むことができます。もちろん一審判決文も東京地裁のページで読むことができますので、関心のある方は拙著と照らし合わせてお読みください。

◆『絶対音感』裁判について(02.4.11.プレスリリースより)

2002.05.13 最相葉月(プロフィール)



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