「人間のクローン胚が全紙一面になってるよ」と新聞を開いた家人の声。誰が、と聞くと、「アドバンスト・セル・なんとか……」
ああ、なるほど。またLNET更新せなあかんな、と私の頭は重くなる。
というわけで、トピックスでも紹介したが、アメリカのベンチャー企業が人間のクローン胚をつくったというニュースにはあまり驚きを感じなかった。技術はあるのだからあとは誰がやるかという状況だったし、アドバンスト・セル・テクノロジー社と聞いて、ああ、あそこならやるだろうと思ったからだ。
だが、彼らの成功は決して彼らだけのものではない。参考文献とされた29本の論文のなかには日本人研究者の論文が6本もあるし、彼らが核移植をするために使用したピエゾ・エレクトリック・デバイスは日本のプライムテックという会社が開発したものだ。これは核移植のときに用いるマイクロマニピュレーターという電子ピペットの付属品として開発されたもので、彼らは卵子から核を除去する際にこれを用いている。卵子へのダメージを最小限にしながら核を取り除くことができるからだ。98年にネイチャー誌で発表された世界初のクローンマウスに成功したハワイ大学の柳町隆造、若山照彦(当時)のグループが使用して研究者の注目を浴びたものだ。
今回、柳町、若山の論文が3本もあがっている。柳町は哺乳類の受精研究では世界的権威であり、日本の畜産技術が世界最高レベルといわれるのは柳町の開発した受精技術が大きく貢献している。いまや不妊クリニックでよく聞かれる顕微受精などの開発者といえば驚かれる方も多いのではないか。若山は現在、ACT社に所属して引き続きマウスのクローニングに携わっている。
つまり、人間のクローン胚ができたというニュースをどこか遠いよその国のできごとで済ませたくないということだ。日本人の研究成果や精密機器では先端をいく日本人の技術が、今回の人間のクローン胚づくりに大きく関わっている。すでに国内で二百数十頭の体細胞クローン牛を生んだ日本である。日本の研究者が作ったとしても決して驚くものではなかった。いくら規制で日本人研究者が人間のクローン胚をつくることを禁止しても、ビジネスは国境を超えていくし、研究成果は直接間接に利用される。ただし、日本人は、やる技術も環境もあるけど、直接手をくだすことはしなかった、というだけのことだ。
ところで、今回卵子を提供した7人の女性から採卵された卵子は合計71個で、米サイエンティフィック・アメリカン誌によると、1人4000ドル(時給40ドル計算・約45万円程度)の報酬が支払われた。これはニューイングランド州で行われている生殖医療目的の卵子提供の平均と同レベルらしい。ブッシュ大統領はさっそく「道徳的誤り」だと批判している。そもそもES細胞研究に対しても難色を示していたのだから当然の反応だといえるが……。将来医学的に大きく貢献することなのに道徳的に誤りだといえるかどうか。
すべては戦略の名のもとにある。情緒的に否定しても目は曇ってしまう。
日本のプライム・テック社のホームページ
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