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最相葉月の「なんでやねん日記」
最終更新日 2002.02.04

2002年2月4日(月)――その11
受精卵から取り出した細胞が、ただの細胞なのか、
それとも「いのち」...

受精卵から取り出した細胞が、ただの細胞なのか、それとも「いのち」に近いものなのか。私は個人的には、受精卵は胎内にあるものは完全に「いのち」だと考えます。でも、体外にあって今後も人間になっていく可能性はない受精卵を「いのち」だといいきれない自分に戸惑いも感じています。その医学的有用性が明確になるにつれて戸惑いは大きくなっています。

脳死臓器移植の議論が行われていたとき、ノンフィクション作家の柳田邦男氏が「二人称の死」といわれたように、受精卵にも「一人称や二人称の受精卵」が存在すると思います。胎内の受精卵を「いのち」と考えるのは、夫と妻は一人称、家族は二人称でしょう。たとえ第三者であっても、時間の流れのなかで人間へと育っていく「いのち」としての受精卵を想像することはできるでしょう。でも、不妊治療に使用しないことが確定してあとは廃棄されるだけの受精卵に向き合う研究者にとってはどうでしょうか。

想像力をもって二人称の受精卵だった時間を感じるとる人はもちろんいると思います。でも、出自を完全に切り離され、時間を経れば捨てられることが決まっている匿名の受精卵を前に、「いのち」だと思え、というのもかなり無理のある話にちがいありません。でも、だからといって、たんなる「モノ」だといわれることにも抵抗を感じます。つまり、そもそも境界など設けられないものに無理やり後づけで設ける必要性がでてきているというのが今の状況です。

内閣府に設置された総合科学技術会議生命倫理専門調査会では、現在、人間の受精卵の取り扱いについての議論が行われています。1月31日の会議では一般を対象にアンケート調査を3月いっぱいまでで行うことを決めました。受精卵を研究に利用することの賛否、自分の移植医療のためにES細胞を利用することの賛否などが質問項目となるようです(未定)。結果がでるまでには数カ月かかる予定です。

実は、会議終了後、内閣府の担当者に、現在文部科学省に申請中のES細胞研究計画があるが、その審査にアンケート調査結果は影響するのか、結果が出てからの審議となるのかとたずねたところ、「どうしてそういう考え方をされるのかなあ」と不思議そうな顔をされました。もちろん私はES細胞研究の指針がすでに昨年9月に施行されていて、研究計画が承認されれば実験が開始されることは承知の上で質問しているのです。研究利用の賛否をたずねるアンケートを国民に行おうというのに、すでに実験は開始される、つまり既製事実は先行するのです。アンケートはあくまでもこの生命倫理調査会での議論の参考とするものであって、ES指針はすでにここで承認されて施行されているのだから、審査には影響しない。あっちとこっちは別の話、というわけです。

なぜこのような矛盾がまかりとおるのでしょうか。答えは簡単です。ES細胞を研究利用しようという目的が先にあって99年に人胚研究小委員会が旧科学技術会議に設けられ、指針策定の議論が行われました。しかし、そこでは人間の受精卵について根本的な問題、すなわち、そもそも受精卵とはどのような位置づけにあり、それを研究に利用するのであればどのような根拠でそれを認めるのか、どの段階から人は人であると考えるのか(その境界が決められるものかどうかは別として)、そもそも受精卵を他者に譲渡するとはどういうことか、といった議論が行われなかったのです。

もちろんそれをやるべきだとする委員の少数意見もありましたが、結果的にはそんなことを話し合ったって倫理観は人それぞれであるからと押し切られたのでした。欧米の研究機関や企業が次々と特許をおさえて研究を進めていくなか、国際競争に遅れをとらないためという事情もあったでしょう。そして、昨年9月指針は施行されました。つまり、現在総合科学技術会議で行われている受精卵についての議論は、ES細胞を利用した研究を認めるかどうかを議論する際に行っているべきものだったのです。

アンケート調査の結果は委員会の議論の参考。委員会でES細胞利用はこれだけ国民の反対があるのだからやってはならない、などという結論が出ればさかのぼって中止ということもありえるでしょう。しかし、一度スタートしたものが中止されることなど現実にはむずかしいでしょう。アンケートは今年度予算として申請されていたもの。使わなければならないのはわかりますが、なぜあのときに……という気がします。医学上どんなに有意義な研究でも、その研究を行うシステムを整備していくプロセスに誠意がみられなければ、研究自体への不信感につながってしまう可能性があることを否定できません。それは研究者にとっても迷惑な話ではないでしょうか。

ところで、LNETは検索エンジンに登録する都合上私の名前を冠にしていますが、ここではジャーナリストとしての持論はほどほどにして、公平なコンテンツづくりと議論の場づくりの編集者に徹しています。しかし、上記のような理解しにくい動きがある場合は、なぜそのようなことになるのか、背景説明や問題提起はしていこうと思います。

2002.02.04 最相葉月(プロフィール)



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