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最相葉月の「なんでやねん日記」
最終更新日 2002.03.28

2002年3月28日――その15
日本でES細胞を樹立する研究計画が承認されました。
計画を申請されていたのは...

昨日、ついに日本でES細胞を樹立する研究計画が承認されました。計画を申請されていたのはLNETでもご意見を寄せてくださった京都大学再生医科学研究所教授の中辻憲夫先生のグループです。中辻先生は記者会見や大学のホームページ上でも、倫理的な配慮を行いつつ社会的合意に則って慎重に進めていくと発表されております。トピックス欄でも書きましたが、倫理的な課題も山積しています。この研究が模範的なリーディングケースとなるよう、LNETでも経緯を注意しつつ見守っていきたいと思います。

それにしても不思議なのは、この審議の報告が途中で一度も総合科学技術会議の生命倫理専門調査会へ上げられなかったことです。指針の事務局は文部科学省になっていますが、指針策定の際、最終的なゴーサインを出したのは総合科学技術会議であり、省庁の枠組みを超えたところに位置づけられていたはずです。意思統一のシステムがうまく機能していないことを感じました。

そういえば、2月26日にニューヨークの国連本部で行われた「人間クローン再生に反対する国際条約」に関する総会アドホック委員会での日本代表の発言についても、生命倫理専門調査会の事前確認を得ていなかったことが問題になっています。

条約づくりは2001年8月にフランスとドイツが国連に提案したもので、2003年までに文案を作成することを目処に12月に条約案作成の臨時委員会が設置されました。会議では意見が大きく2つに分かれました。クローン人間だけを禁止せよという意見と、クローン胚作成も禁止せよというものです。前者は日本とフランスとドイツ、後者はアメリカ、南米、スペインなどカトリック教徒の多い国でした。日本政府代表の本村芳行国連大使は、クローン人間は禁止すべきとしながらも、クローン胚作成にはクローン人間のように、人間の尊厳の反したり、社会秩序の混乱を招くおそれはなく、医学的に大きな可能性を秘めるクローン胚づくりまでは禁止すべきではないと発言しました。この発言は翌日のワシントンポスト紙などでも報じられました。ところが、この発言が3月15日の生命倫理専門調査会の最後に問題となりました。指摘したのは委員の勝木元也先生です。クローン胚づくりは日本では認められておらず、生命倫理専門調査会でも禁止の結論を出しています。それなのになぜクローン胚研究は人間の尊厳を冒すことはないので研究は将来的には解禁されるべきだ、などという合意のない発言が日本政府の見解として表明されたのか。実はこれについても生命倫理専門調査会には一切の事前報告がありませんでした。国連会議に同行した文部科学省担当者によると、日本代表として日本の立場を強く主張する駆け引きの場だったからなどと弁明しましたが、どう考えてもこれは問題です。生命倫理専門調査会の井村裕夫委員長もこの件は事前に知らされておらず、文部科学省の独断であったことがわかりました。

それにしてもなぜ、このような声明文が作成されたのでしょうか。たんに文科省のフライングとも思えません。2001年10月30日の本欄でも言及しましたが、井村委員長は「ヒトクローン胚は一年で研究できるようにしたい」という爆弾発言をしています。また、日本学術会議が編集協力をしている『学術の動向』2002年3月号の特集:科学技術の新世紀に寄稿された論文「ライフサイエンス」では以下のように書いておられます。

「幹細胞の中でも胚性幹細胞(ES細胞)は、発生初期の胚盤胞から得られる幹細胞で、ほとんどあらゆる組織の細胞に分化する性質を有している。従って、再生医療に用いるため生じる倫理的問題、免疫学的拒絶反応などの問題点が残されている。そこで、体細胞核を脱核未受精卵に移植して、患者の遺伝的特性を持ったES細胞を作製しようとする試みも始められている」

 一見、問題がなさそうな文章ですが、よく読むとこれは、ES細胞は受精卵を使うから倫理的に問題があるが、体細胞クローン胚であれば問題がないといっていることがわかります。井村委員長の方向性は昨年10月の段階となんら変わっていないということです。したがって、国連の声明文はこうした委員長の意見を文部科学省と外務省が勝手に忖度して作成した結果ともいえそうです。しかし、これはあくまでも委員長の個人的な見解であって総合科学技術会議の総意でもなければ、国会承認を得た見解でもないのです。つまり日本を代表する考え方ではありません。クローン胚がどんなに有効でも子宮に移植すればクローン人間が誕生します。研究を解禁するにはもっと慎重な審議がさらに必要とされているのです。国内初のES細胞樹立が認められましたが、このようなシステムの不備があると先行き不安です。

2002.03.28 最相葉月(プロフィール)



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