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最相葉月の「なんでやねん日記」
最終更新日 2003.08.31

2003年8月31日(日)――その44
取り戻せないもの

先日、気象庁の生物季節観測が16年ぶりに見直され、47種目の動植物が除外されたという報道がありました。生物季節観測とは、一年のうちでその動植物を初めて見た日、初めて鳴き声を聞いた日を全国で観測し、気象の変化が動植物の生態に与える影響を調査するものです。桜の開花日を日本地図上に落とした桜前線は有名ですね。トノサマガエル前線やイチョウ前線、アブラゼミ前線もあるんです。今回削除された47種目の中には、ミカンやヤマユリ、コスモス(秋桜なのに!)、キリギリスなども含まれます。都市化のために観測ができなくなったということですが、季節を知るための草木や昆虫が身近にいなくなったというのはとてもさみしいことだと思いました。

この報道で思いだしたのが、プラント・ハンターのことです。INDEXのトップで紹介したキングドン・ウォードは、20世紀前半、チベット奥地やビルマに渡り、ヨーロッパにはない珍しい新種を発見しては母国英国に持ち帰り、園芸産業に貢献した植物学者です。大航海時代にイギリスやオランダ、フランス諸国は、自国の気候にあった植物や薬用になる植物を求めて多くの採集家をアジア諸国に派遣しました。当初は薬種商や採集家が中心でしたが、19世紀後半になると専門知識をもつ学者がチベットや中国西部、日本など未知の植物が豊富な土地へ挑みました。ウォードの採集した植物の標本はケンブリッジ大学やキュー植物園に保管されています。

引用した一文は、ウォードの植物採集回想録『植物巡礼』(岩波文庫)中のもので、自分が採集した植物が戦争勃発のために芽を出すこともなく園芸植物として途絶えてしまったことを憂いて記された一節です。プラントハンティングがそもそもは、ヨーロッパの植民政策の一貫として始まったことは確かですが、日本では失われてしまった伝統園芸植物文化が今なお英国の園芸人たちに大切にされていることを思うと、必ずしも否定できません。持っていかれたもののほうが大事に保存されているとは、皮肉なことです。

絶滅から動植物を救う。遺伝子操作やクローン技術はそのひとつの方法です。ただ、季節を知る47種目を失った今思うのは、失いつつあった16年間、それに気づかなかったという自分たちの感性のほうです。感性は技術では取り戻せません。

2003.08.31 最相葉月(プロフィール)



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