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最相葉月の「なんでやねん日記」
最終更新日 2004.07.14

2004年7月14日(水)――その78
Faithを持てない日本

本日、第38回生命倫理専門調査会が開催され「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」最終報告書が決定しました。概要は「情報掲示板」に記しておりますので、そちらをご覧ください。

これは初耳だったのですが、薬師寺会長は、この国の科学技術政策を推進することが前提の総合科学技術会議の中においても独立した生命倫理の審議が行われうるという考え方の持ち主でした。あの悪しき中間報告書にすら記載されていた、総合科学技術会議は内閣府の独立した生命倫理審査機関をもつべきという提案(この件は、井村前会長自身が小泉首相に直接意見したと私の取材に回答)は結局、最終報告書には盛り込まれませんでした。現在の生命倫理専門調査会は、人クローン規制法の付則で設置された限定機関。人クローン胚研究の容認を含む今回のような重大な報告書を作成しておきながら、では今後この国の生命倫理を審議する機関はどうなってしまうのでしょうか。

生殖補助医療がこの国の生命科学技術政策から抜け落ちた2001年から、予想されていたとおりの決着でした。あのとき、ES細胞研究、ひいてはクローン胚研究を行うことが近い将来あると知りながら、クローン人間誕生の恐怖ばかりを世間に植え付け、研究材料の供給源であるかもしれない生殖補助医療の現場の混沌を徹底調査せずに置き去りにしたツケが、この生命倫理専門調査会の議論の不自由さと捻れとなって現れていました。からみあったまま、まあいいや、まあいいや、と無理矢理回し続けた洗濯機の蓋を開けたら、どの洋服も破れ千切れほつれ、まったく使い物にならなくなってしまった、といった感じでしょうか。すりきれてもなお、まだそれを着続けようとしています。

薬師寺会長は「ぼくは一生懸命だった」と終了後感想を述べておられました。たしかにこれだけ錯綜する案件をまとめるのは大変なご苦労だったと思います。でも、一生懸命だったのは期限内に最終報告書をまとめることであって、さまざまに危惧される未来を想像し、それに対して何が最も適切な方法であるのかを考え、建設的に議論を積み上げていくことには一生懸命ではありませんでした。ここでふみとどまることのなかったツケは近い将来また必ずまわってくるでしょう。

先日、 LNETサポーターで米国在住の小説家・渡辺由佳里さんからなるほどと思うメールをいただきました。渡辺さんは、とても複雑なんだけどという前置きをして、自分はアメリカ政府のヒト胚研究への助成交付には賛成だとおっしゃいました。なぜかというと、政府からの研究費が制限されることで、かえってこの分野が市場原理に操られることをもっとも危惧しているからとのこと。そして、こう書いておられます。

「最近のアメリカ合衆国にはがっかりすることが多いのですが、それでも私はこの国のcheck & balanceのシステムと、それを徹底させようとする人々の存在にfaithを持っています。それも賛成に傾いている理由のひとつです」

しかしながら、日本についてはまったく逆の意見をもつというのです。(私が書いている調査会の内情を読まれたことも影響しているのでしょうが)

「生命倫理専門調査会の委員に選ばれた方々のレベルから判断して、日本が近い将来信頼できるcheck & balanceのシステムを作り上げるのは不可能だと思わざるを得ません。 中絶する親が中絶される胎児の研究利用を許可するという発想も、日本ならではのものですよね。ひとりの日本人として寂しい限りですが、私はこのような日本人の倫理観にfaithを持つことができません。従って、矛盾するようですが、私は日本での人クローン胚作成、受精卵、卵子の研究への応用、中絶胎児の利用、すべてに反対の立場です。」

はっとしました。もし、自分がアメリカにいたらどうだろうかと。たぶん渡辺さんと同じ意見をもつでしょう。私がどうしてもヒト胚研究に賛成できないのは、「日本」に「Faith」を持てなかったからなのだと改めて思ったのです。

少なくとも、ドリーが誕生した頃から数年、核移植の研究者やES細胞研究の現場で一生懸命にがんばっている人たちに出会い、彼らの研究に対する真摯な姿を応援したいと思っていましたし、なんとかして非専門家の人々とも相互理解しあえる場をつくりたいと私なりに模索してきました。不妊治療に苦しむ人々や再生医療に望みを託している人々にも会いました。「母のパーキンソン病が治るなら、私たちの受精卵を提供したい」そう思っている人にも会いました。私がこのサイトを立ち上げたのも、少しはお役にたてるのではないかと思ったからです。この国は、人々の心を支えるシステムをつくることができると信じて。しかし……。

2000 年のクローン規制法の国会審議のとき、私は「生殖補助医療を置き去りにしたままでクローン人間だけを禁止しても意味はない、ヒト胚の包括的な規制を検討すべきだ」という立場で参考人をつとめました。すると、社民党の北川れん子議員にこう質問されました。正確な言葉は記憶があいまいですが、「クローン人間が生まれる危険性があっても、あなたはクローン規制法に反対するか」と。そのとき、私は「明日もしクローン人間が生まれても、あなたはその責任をとれるのか」と突きつけられたように思い、答えにつまりました。同じようなことが、朝日新聞論壇紙上でもありました。「課題棚上げしたクローン法案」(コラム欄参照)と題する私の意見に対し当時、クローン規制法の事務局をつとめていた科学技術庁の佐伯・生命倫理安全対策室長(当時)に、論壇紙上でこう返されたのです。「クローン人間が生まれたらどうするのかと」

私は反省しています。あのとき、国会で、論壇紙上で「それでも、クローン規制法に反対します」といい切れなかったことを。

あれから3年間もかかってしまいました。

私は、日本でのヒト胚研究、生殖補助医療目的に受精卵をつくる研究も、卵子や受精卵や中絶胎児を研究に利用することも、すべてに反対します。それはすなわち、私はこの件に関して、ジャーナリストではなくなったということです。

2004.07.14 最相葉月(プロフィール)



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