今日は午後1時から6時過ぎまで総合科学技術会議の特定胚指針に関するプロジェクト会合がぶっつづけで行われた。といっても、何がなんだか……という人が大半だろう。
今年6月に施行された「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律(クローン法と呼ぶ)」があるのだが、ここではクローン人間や人間か動物かわからないキメラが生まれないよう、受精卵や未受精卵を組み合わせたり核移植したりした胚を母親の子宮に移植することを禁止した(ここにいう胚とは、生殖細胞以外で子宮に戻せば個体になる細胞のことだ)。
ただ、これだけでは、母胎に入れなければ試験管やシャーレでつくってもいいのかということになりかねない。そこで、この法律では公布から一年以内に、ここですくいあげられなかった胚を利用する研究がどこまで認めるのかをクローン法に基づく指針としてつくることを定めていた。つまり、そのクローン法に基づく指針づくりのための会合だ。結論からいえば、動物の受精卵に人間の細胞を導入する研究に限って認められた。これで、人間の細胞や組織、臓器をもった動物が生まれることになり、将来は移植医療に役立つことになるだろう。ただ、今のところは作成してから三胚葉といって、受精卵が内胚葉、中胚葉、外胚葉の三つの部分に分化して個体が発生を開始するまで、これは動物によって速度が違うので長くとも14日以内までを限度に廃棄しなければならないことになった。基礎研究に止めるということだ。間違っても私の細胞を持ったブタはまだ現れないはずだ。
途中5分間のトイレ休憩をはさんだだけの大激論だった。不謹慎かもしれないが、これを同時中継してみなさんにも見ていただきたかった。はじめから一貫して受精卵を使用する研究に反対する立場の生物学者と宗教学者、少しでも解禁して医学や発生学などの研究の自由と自己責任を重視したい再生医療の研究者、不妊治療の基礎研究ではすでにここまでいっていると具体例を提示する産婦人科医。調整役の法律学者。もちろんみな相互理解と歩み寄りをみせながら議論をするのだが、なにぶんまだ誰もやったこともない研究とそれが引き起こす可能性までを想定して禁止あるいは解禁していく話をするのだから、しゃべっているほうも聞いているほうもたびたびわけがわからなくなる。最終的には当初想定していたものよりかなり厳しい規制となったが、前回の生命倫理専門調査委員会の最後で井村裕夫委員長の「ヒトクローン胚の研究は一年でやりましょう」と爆弾発言があり、今後の動向は目が離せなくなった。
これは昨年末にクローン法案の国会審議が行われたときから指摘しているのだが(注1)、総合科学技術会議議員である井村委員長は神戸市や神戸中央市民病院(井村委員長は前院長)を中心として推進されている医療産業都市構想の神戸医療産業都市構想研究会会長であり、先端医療振興財団の顧問である(注2)。産学官の連携で行われる壮大な医療都市計画のなかでも再生医療はその要だ。そのような要職についた人が同時に国の生命倫理を諮問する委員長にある現在の人選はどう考えても公平さに欠けるのではないだろうか。これは何も私だけが言っているのではなく、すでにイギリスの医学誌ネイチャー・メディスン2000年3月(Japan to permit stem cell researchp239, Nature Medicine,March 2000 vol.6 Issue 3)が指摘しており、現在も疑問をもつ関係者・ジャーナリスト・国会議員はいる。個人を攻撃するものではなく、そのような人選が行われてしまうシステムの問題だと考えていた。だが、「一年でヒトクローン胚」の発言には驚いた。国の倫理委員長の発言だとは到底思えない。
ちなみに、ヒトクローン胚の研究は免疫拒絶反応のない移植医療や細胞治療に有効とされるのだが、母胎に移植すればクローン人間が誕生する。世界的にも禁止する国がほとんどで、2001年1月22日にイギリスが世界で初めて、個体に結びつかない研究に限ってヒトクローン胚の作成を認めるべく人間の受精胚研究法を改正した(注3)。ただし、非常に厳しく限定された研究と研究者に限られている。
朝日新聞10月24日朝刊の報道にあったように、この国では5000個の凍結受精卵がカップルの同意なく捨てられたり研究に使われたりしている。毎日新聞25日朝刊の報道にはどんな関心のない人でもぶったまげただろう。人間の細胞が競売にかけられたのだ。しかも、学会理事長という立場にある人の手で。そんな国で、ヒトクローン胚の研究を解禁してもいいといえるのだろうか。わけわからん。
(注1)
第150回国会 衆議院科学技術委員会参考人陳述第 4 号 平成12年11月14日(火曜日)
http://www.shugiin.go.jp/itdb_main.nsf/html/kaigiroku/001615020001114004.htm
「クローン技術等のヒトへの応用に関する法律」の法制定プロセスを取材し、現法案の問題点および生命倫理委員長の適格性を指摘しました。
(注2)
神戸市医療産業都市構想のホームページ
http://www.city.kobe.jp/cityoffice/06/015/iryo/index.html
神戸市の医療産業都市計画は、医薬品の臨床試験の実施システムを整備したり、医療機器の開発研究、また再生医療の治療への応用などに取り組み、約20年後には関西全体で約2万3千人規模の雇用と約5300億円の生産誘発効果があるとされている。
(注3)
イギリスのヒトの受精と胚研究法
http://www.hfea.gov.uk/