'Life Science Information Net' produced by Hazuki Saisho 最相葉月  トップへ 目次へ

◆INDEX◆

質問の小部屋
過去の質問と回答

質問フォーム
LNET倫理委員会
アンケート
受精卵は誰のもの
本サイトの目標
更新記録
サポーターの宝箱
サポータープロフィール
情報掲示板
LNET図書室
イベントカレンダー
パブリック
コメントのすすめ

LNETニュース
資料庫
アーカイブ
オススメサイト
リンク集
トンデモ生命科学
サポーター書込
サポーター募集
スタッフ日記
スタッフプロフィール
最相葉月コラム
最相葉月の
なんでやねん日記


◆目次◆


最相葉月の「なんでやねん日記」
最終更新日 2002.06.13

2002年6月13日(水)――その20
「動物におけるクローン研究の状況」と題する
レクチャーをされたのですが、
ここで大変注目すべき暴露発言が...

今日は、総合科学技術会議第18回生命倫理専門調査会が行われました。この委員会では「人間の受精卵の取り扱いのあり方」、つまり、人間の受精卵を研究に利用する前提として、何を検討していくべきかについて議論が続いており、この数ヶ月は各界の識者を招いてヒアリングを行っています。

第18回委員会のこの日招かれたのは、神戸にある理化学研究所発生・再生科学総合研究センター、ゲノムリプログラム部門のリーダー若山照彦氏です。若山氏はハワイ大学の柳町隆造教授のもとで世界で初めて体細胞クローン・マウスをつくることに成功した研究者で、その後は、アメリカのロックフェラー大学にわたり、さらにアドバンスト・セル・テクノロジー社(ACT)では動物の核移植を研究してこられました。

この日、委員会で若山氏は「動物におけるクローン研究の状況」と題するレクチャーをされたのですが、ここで大変注目すべき暴露発言がありました。

それは、LNETのトピックスでも紹介したACT社の人間のクローン胚に成功したという発表についてです。これは、昨年11月25日、ACT社が人間の卵子を精子を使わずに発生させること(単為発生)と、クローン胚を作ることに世界で初めて成功したと専門誌「The Journal of Regenerative Medicine」11月26日号で発表したものですが、その論文内容については発表当初から多くの研究者に大変不十分な論文であるとの批判を受けていました。LNETへは、京大再生研の中辻憲夫先生が、ACT社の論文へのコメントをお送りくださいました。

そんな不十分な論文をなぜ雑誌に発表し、メディアで大きく報じさせたのか、その背景にはいったい何があったのかと物議をかもしていましたが、この日の若山氏の発言によれば、あまりにもデータがひどいため、研究者は全員、論文の執筆者自身も発表に反対していたにもかかわらず、投資家に支えられている小さな企業であるACT社としては、政治的にも、会社の資金繰りの面でも投資家の圧力で特許を取得するためにも発表せざるをえなかったのだ、ということでした。実際の学術的価値は低いのに政治的経済的理由から発表したと、当時は社員であった研究者自身が認めた発言として注目すべき重大発言だと思われます。

先日、トピックスでも紹介しましたが、アメリカでは現在、受精卵を用いる研究、人間のクローン胚づくりについて、議会で大変な議論となっています。ACT社は6月3日にも、牛のクローン胚から細胞や組織をつくり、それを移植しても拒絶反応が起こらないことを証明したと発表しました。この研究についても、誰もがやればできると思っていたことを実際にやっただけ、という批判の声があります。特許取得に先走りすぎるACT社の動向を見ていると、人間のクローン胚づくりに反対を示すブッシュ政権に抵抗する旗頭としての役割を担わされていると思えるのは私だけでしょうか。それに加担する研究者に、科学者としての誇りはあるのでしょうか。

ところで、この日、若山氏は自身のレジュメにある人間のクローン胚に関する部分は、自分はマウスをやっているだけで人間についてはわからない、と言って説明を省略されました。発表後は質疑応答をされたあと、倫理委員会を傍聴されずにすぐに退席されました。自分の役目を終えるとさっさと帰られてしまう方は以前の識者にもおられましたが、せっかく国の生命倫理政策を議論する場に来られたのに、残念なことだと思います。

私は以前、ハワイ大学でマウスのクローンに成功された直後の若山氏にインタビューをしたことがありますが、そのとき、この技術がやがて人間に応用され、クローン人間を誕生させるかもしれない可能性があるが、それについてどう考えるかとたずねたところ、自分はマウスをやっているだけなので、人間については関知しない、と言われ、倫理的な面にはあまり関心がないようだという印象を持ちました。技術の先駆者には社会的にも説明責任があると私は思いますが、あれから数年たった今日もまた変わらぬ印象を持ちました。

生命科学技術とは、生物の生命に関わる科学技術です。だからこそ、たとえ基礎研究であってもその社会的影響は必至であり、科学者自身もその技術が自分の研究室に留まることなく、どのように社会に、人の心に、未来に影響を与えるのかを想像しなければならないのだと思います。そのことよりも政治的な圧力や企業経営、特許が優先するアメリカのバイオ産業の実態はただちに批判されるべきものです。

2002.06.13 最相葉月(プロフィール)



  ←前へ  
コーナー目次へ
  後へ→  



「本稿へのご感想、ご意見は「質問の小部屋」からお送りください」

Copyright (c) 2001-2003, Life Science information Net, All Rights Reserved.
本サイトの著作権は各筆者ならびに Life Science information Net に帰属します。無断転載はお断りします。
リンクはご自由にしていただいて結構ですが、別ウインドウを開く形で、別のサイトであると分かる形でのリンクをお願いします。
「受精卵は人か否か」 "Life Science Information Net" produced by Hazuki Saisho 最相葉月