'Life Science Information Net' produced by Hazuki Saisho 最相葉月  トップへ 目次へ

◆INDEX◆

質問の小部屋
過去の質問と回答

質問フォーム
LNET倫理委員会
アンケート
受精卵は誰のもの
本サイトの目標
更新記録
サポーターの宝箱
サポータープロフィール
情報掲示板
LNET図書室
イベントカレンダー
パブリック
コメントのすすめ

LNETニュース
資料庫
アーカイブ
オススメサイト
リンク集
トンデモ生命科学
サポーター書込
サポーター募集
スタッフ日記
スタッフプロフィール
最相葉月コラム
最相葉月の
なんでやねん日記


◆目次◆


最相葉月の「なんでやねん日記」
最終更新日 2002.11.28

2002年11月28日(木)――その26
胎児組織研究利用問題研究会に
参加してまいりました。これは...

2002年11月26日、LNETの生命倫理学サポーター玉井真理子さん主宰の胎児組織研究利用問題研究会に参加してまいりました。これは、中絶あるいは流産した胎児が最近になって再生医療の資源として研究に使われようとする流れを受けて、この社会的問題を考えるために作られた勉強会です。

中絶あるいは流産した胎児はこれまでにも、遺伝病の研究やよりよい出産のための研究を目的として、それを使用する以外に方法のない場合に限って、研究に利用されてきました。ただし、妊娠12週以上で死亡した胎児や新生児は死体解剖保存法に基づいて取り扱うことになっていますが、妊娠12週未満で死亡した胎児の場合は規定がありません。日本産科婦人科学会では倫理的同義的配慮をすれば再生医療への利用を制限しないとしており、厚生労働省の専門委員会・厚生科学審議会科学技術部会ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会も、2002年11月15日、国内で初めて、中絶などで死亡した胎児の幹細胞を研究に利用することを認め、来春告示する指針案に盛り込むことを決めています。パーキンソン病やハンチントン病といった神経変性性疾患の治療のためには、胎児の中脳のドーパミンニューロンの移植が有効とされていますが、これまでの治療では1回の移植に10〜15体の胎児が必要だったのに対し、ニューロンの源である神経幹細胞の時点で増殖をしていれば、一人分の胎児細胞で多数の患者の治療が行えるとみられています。

国内では、国立大阪病院が1999年秋からインフォームド・コンセントを取得し、院内の生命倫理委員会の承認を得た上で4〜5体の中絶胎児から神経幹細胞を単離しています。2002年11月には産業技術総合研究所ティッシュエンジニアリング研究センター細胞工学チームの金村米博氏が、これを利用して神経幹細胞の大量培養技術をほぼ確立したことが発表されていました。前後しますが、2001年12月の日本分子生物学会では、大阪病院で入手した胎児の神経幹細胞を脊髄が損傷したサルに移植したところ、機能が回復したとする慶応大学の岡野栄之らの研究も発表され、脊髄損傷の患者さんには朗報となりました。

さて、そこで疑問となるのは、これまでどのようなかたちで中絶あるいは流産した胎児が利用されてきたのか、その点においてはなんら規制がないのに、なぜ幹細胞を用いた研究利用だけは指針に盛り込むのかということです。実は、中絶・流産胎児の研究利用が話題になったのはこれが初めてではありません。人間のES細胞の研究利用の指針の策定審議を行った、科学技術会議時代の生命倫理委員会のヒト胚研究小委員会においてもこの件が一瞬だけ論じられたことがありました。このときは、胎児の研究利用がどれだけきっちりしたルールもシステムもなく行われているか、そのことをES細胞の研究を考えるこの委員会で論ずることは議論をさらに迷走させるおそれがあることで、棚上げされたという経緯があります。つまり、議論の俎上にもあがっていないわけです。それにもかかわらず、骨髄や血液といった体性幹細胞の研究を規制する指針の中で、胎児を位置づけようとすることは明らかに無理があります。

11月26日の玉井研究会で私が申し上げたことは、これだけ科学研究と倫理的な問題に意識が高まっているにもかかわらず、過去に行われてきた中絶・流産胎児の研究利用の実態調査を行うことなく、再生医療研究への利用を進めていくことへの飛躍でした。どれだけのクリニックで中絶された胎児が、誰から誰に、どのタイミングでどのような説明をされ、何の研究に使われてきたのか。本来、医療廃棄物として廃棄されるはずであったものを医学の発展のため有効に利用されてきたはずなのですから、そこをできるだけ洗い出して把握していく必要があるのではないでしょうか。なお、厚生労働省にも、文部科学省にも、そのような実態調査班は設置されていません。つまり、現状は不明なのです。

研究当事者は、自分たちが最も危惧することとして、「私たちの研究の是非と人工妊娠中絶そのものの是非とを混同して、感情的な議論に巻き込まれることであります」(日本組織培養学会第75回大会シンポジウムでの金村氏発表資料より)だとしています。しかし、私は、逆に人工妊娠中絶を決断しなければならなかった人々の感情を置き去りにして、この研究が進められることがあってはならないと考えます。これは、この研究によって多くの病気が治ることを否定することではなく、研究当事者が望むようなシステムを構築するためにも必要なことだと思います。感情的な議論を過小評価してはいけません。感情的なものは最大の抵抗にも、最大の推進力にもなりうるのです。玉井研究会で興味深かった発言は、ある大学院生の方が、そもそも胎児の研究利用を代諾する権利が胎児の母親、あるいは父親にあるのか、といった根本的な疑問を提示されたことでした。検討が必要なことはまだまだありそうです。


なお、玉井真理子さんのHPに、この研究会を始められた理由が書かれています。
http://square.umin.ac.jp/~mtamai/tyuzetu.htm

2002.11.28 最相葉月(プロフィール)



  ←前へ  
コーナー目次へ
  後へ→  



「本稿へのご感想、ご意見は「質問の小部屋」からお送りください」

Copyright (c) 2001-2003, Life Science information Net, All Rights Reserved.
本サイトの著作権は各筆者ならびに Life Science information Net に帰属します。無断転載はお断りします。
リンクはご自由にしていただいて結構ですが、別ウインドウを開く形で、別のサイトであると分かる形でのリンクをお願いします。
「受精卵は人か否か」 "Life Science Information Net" produced by Hazuki Saisho 最相葉月