'Life Science Information Net' produced by Hazuki Saisho 最相葉月  トップへ 目次へ

◆INDEX◆

質問の小部屋
過去の質問と回答

質問フォーム
LNET倫理委員会
アンケート
受精卵は誰のもの
本サイトの目標
更新記録
サイト内検索
サポーターの宝箱
サポータープロフィール
情報掲示板
LNET図書室
イベントカレンダー
パブリック
コメントのすすめ

LNETニュース
資料庫
アーカイブ
オススメサイト
リンク集
トンデモ生命科学
サポーター書込
サポーター募集
スタッフ日記
スタッフプロフィール
最相葉月コラム
最相葉月の
なんでやねん日記


◆目次◆


最相葉月の「なんでやねん日記」
最終更新日 2004.03.02

2004年3月2日(火)――その58
パブリックコメントを提出しました

総合科学技術会議生命倫理専門調査会が2003/12/26発表した「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」中間報告書へのパブリックコメントを提出しました。締め切りは2/29でしたので、私が提出した文書を転載いたします。なお、パブリックコメントは1000字以内という制限がありましたが、ここでは事情をご存じない方へ向けて解説を加えます。

1.そもそも、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」の付則の検討を行うことを生命倫理専門調査会の優先課題と設定したことが審議を矮小化させた原因である。まずは、科学技術の進展に伴って起こりうる生命倫理の諸問題とは何であるかを議論して検討課題を洗い出し、優先順位を決め、その中で、ヒト胚研究を位置づけるべきであった。臨床試験の被験者保護、生殖補助医療、中絶胎児の研究利用・産業利用、生体肝移植など、急を要する課題は山積している。

解説)生命倫理専門調査会は2年半の間もっぱらES指針やクローン法の付則などヒト胚に関する審議を行い、それ以外の倫理問題は扱っていません。私はクローン法があくまでもクローン人間を罰則付きで禁止するだけの歪な法律で、ヒト胚研究を推進するための便宜的なものであったこと、この段階で生殖補助医療の問題点の洗い出しを行わなかったことが、現在の倫理審議の混乱を招いていると考えています。(「最相葉月コラム」コーナーの「課題棚上げしたクローン法案」朝日新聞論壇2000.05.04を参照してください)

2.無記名アンケートは、調査会が審議公開・議事録公開で行われた意味を一瞬にして反故にした。はい、いいえ、では答えられない問題だからこそ2年半をかけて議論していたのではないのか。会議で発言できないばかりか、意見書も提出せずに、ただ、はい、いいえ、で回答した「大多数」の「匿名」委員の意見を少なくとも私は信じることができない。

解説)2004/11/5頃に、受精卵の研究目的での作成の可否、クローン胚研究の可否などについて、全委員への無記名アンケートが実施されました。これについては、勝木・島薗委員が連名で提出拒否の手紙を井村会長に提出するなど、専門調査会の場でも批判が相次ぎました。井村会長は私の取材に対し、「自分自身の任期切れ(2004/1/5付)の件もあり、焦りがあったことは認めます」と回答しています。

3.韓国のクローン胚からES細胞樹立の研究結果からみても、一人の患者の治療に必要な受精卵、あるいは卵子は数百個以上である。しかし、報告書には、それだけの受精卵、卵子を提供してもらおうとする倫理的理由も、科学的根拠も示されていない。将来考えられうるヒト胚研究の科学的危険性、体性幹細胞研究との比較、商業利用に伴う諸問題、制度的枠組み、国際的協調についてもなんら検討されていない。とくに、ヒトクローン胚研究を推進すべきと主張する委員は、この医療が引き起こすかもしれないリスクと対処方法を現在の研究成果をもとに予測し、人で実験せねばならない根拠を具体的に提示する必要がある。

解説)ヒト胚研究の土台に生殖補助医療の現場があることは、クローン法案審議の際に国会でも、また上の朝日新聞記事でも再三指摘したとおりです。卵子提供の負担については科学ジャーナリストの粥川準二さんが著書『クローン人間』「人倫研プロジェクトNews Letter No.8」などで具体的に指摘されていますが、クローン胚からES細胞を樹立したマウスの研究論文は4本、人が先日の韓国ソウル大学研究チームの論文で1本あるきりで、その成功率を見ても一人の患者の自分のES細胞を作るのに必要な卵子は約700個です。ただ、技術的な問題はいずれクリアされる可能性があります。だとすれば、現在考えられうるリスクを検証し、倫理的理由を詰める必要があります。世界一位の長寿国が「日本を世界でいちばん健康な社会に」(小泉内閣メールマガジン55号)などと自己中心的な戯れ言をいうのは今日を限りに、国際的協調を呼びかける方策を一刻も早く考えなくてはなりません。

4.着床前診断を含む出生前診断は、1.で述べた緊急に検討すべき課題の一つであり、別途一冊の報告書を作成すべきほど重要かつ困難な問題を含んでいる。ヒト胚を利用する研究について考えるこの報告書からは削除すべきである。

解説)着床前診断を報告書に入れるべきと最初にいったのは位田隆一委員で、胚を扱う文書なのだから必要だと思われたようです(第7回専門調査会で発言)。ただし、その後調査会ではまったく議論は行われておらず、素案づくりを行う非公開のワーキンググループの席にまずは慶応の吉村泰典教授が招かれて説明をし、その後、2003/4/24の専門調査会に吉村教授が呼ばれて話をしました。ほかの参考人が全員本会議限りだったのに対し、ワーキンググループに最初に呼ばれていたということは異例の措置だったと思います。その後、素案ができあがって5回にわたる調査会で着床前診断についての議論はほとんど行われていません。

5.「総合科学技術会議(生命倫理専門調査会)としての考え方」(16P)、「ヒト受精胚の具体的な取扱いに関する倫理的考察と判断」(17P〜23P)が核心部分であるにもかかわらず、ページ数に比例するように内容が薄く言葉が死んでいる。「ヒト受精胚については、人格を持つ『人』ではなく、単なる『モノ』でもない中間的存在として位置付けざるをえない」(16P)とあるが、この報告書自体が、受精卵を「モノ」のように扱っている。

解説)これは中間報告書を実際に読んでいただいたほうがいいでしょう。

6.治療用クローン技術は、たとえ実用化されるにしても最低20年以上、あるいは実用化は困難だと現時点で考える多くの専門家がいる。難病患者の方に明日にでも治るような、中途半端に希望を与えるような発言・意見発表は慎むべきであり、夢の医療のような宣伝を抑えるためにも、生命倫理専門調査会として現段階の公式見解を早急に記者発表すべきである。同様に、受精卵を提供する夫婦へも、事前に明確に説明すべきである。

解説)治療用クローン技術については、まだまだマウスでの基礎研究を蓄積する必要があるという専門家の声を私はこれまで多数耳にしました。ヒトES細胞に関する特許をもつのは国内企業では協和発酵ですが、協和発酵は理化学研究所(当時京都大学)の笹井芳樹氏のマウスのES細胞研究を共同で行い、出願の手伝いを行っただけで、今も昔もヒト胚を使用する研究、臨床応用など一切考えていない、自己治癒力を主眼としてもっぱら体性幹細胞の研究を行い、細胞移植ではなく神経再生薬品の研究を行っていると私の取材に対して公式に回答しています。
以前、この欄で推進派の委員に難病患者の方々をなんとしてでも救いたいのだという切実さが感じられないのはなぜかと書いたことがあります。先日の国民説明会でも強く感じたのですが、率直に申せば、推進派は患者の方々を利用しているとしか思えないのです。今目の前の患者さんのことを思うのなら、現在進行している体性幹細胞研究の現状をなぜもっと具体的に彼らに提示しないのでしょうか。体性幹細胞と胚性幹細胞の研究者間では激しい競争があるそうですが、そのためなのでしょうか。

2004.03.02 最相葉月(プロフィール)



  ←前へ  
コーナー目次へ
  後へ→  



「本稿へのご感想、ご意見は「質問の小部屋」からお送りください」

Copyright (c) 2001-2004, Life Science information Net, All Rights Reserved.
本サイトの著作権は各筆者ならびに Life Science information Net に帰属します。無断転載はお断りします。
リンクはご自由にしていただいて結構ですが、別ウインドウを開く形で、別のサイトであると分かる形でのリンクをお願いします。
「受精卵は人か否か」 "Life Science Information Net" produced by Hazuki Saisho 最相葉月