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最相葉月の「なんでやねん日記」
最終更新日 2004.03.10

2004年3月10日(水)――その60
朝鮮族の女性の卵子

韓国の研究グループがボランティアの女性の卵子を使用してクローン胚からES細胞をつくったサイエンス誌の論文を調べている途中で、こんなことを耳にしました。科学技術文明研究所で韓国の生命倫理法の立法過程を研究なさっている洪賢秀さんからうかがったのですが、韓国で行われている卵子・精子の売買のうち、中国から移住した朝鮮族の卵子が安価で流通しているというのです。韓国には生殖補助医療やヒト胚研究における南北問題がすでに厳然と存在しているという事実です。そういう国で世界初の人クローン胚からES細胞作成の研究が行われたのです。

私には子供はいませんが、5年前から身元引受人をしている中国黒龍江省出身のSさんという娘のような女性がいます。彼女は朝鮮族です。仕事をしながら一生懸命実家に仕送りをしているのですが、月に一回は最低でも顔を見せるようにといっているので、先日会ったときに韓国のクローン胚研究の話をしてみると、「それは朝鮮族でしょうね。無償は絶対ありえませんよ」「サイショーさんにはわからないと思うけど、すべてを捨てて身ひとつで韓国に移住したのですから、卵子ぐらい平気で売りますよ」と笑うのです。今回の研究がそうだという確証はまだ得られていませんが、彼女の言葉には頭をガツンと殴られた思いでした。

今日発売された「文藝春秋」4月特別号で私が書いた生命倫理専門調査会中間報告書の批判記事(「クローン胚製造は命の商業化だ」というタイトルがつけられています)のうち、十分ふれられなかったのがヒト胚研究の国際競争の問題です。ここで私は、たとえ日本で研究が制限されても、これを国策とする国に患者の体細胞を送って現地の女性の卵子でクローン胚をつくり、そこからES細胞をつくって送り返してもらって移植するビジネスが誕生するおそれがあると書いています。これは南北問題をいっているのですが、すでに韓国国内でそれが存在している可能性があるのです。

中国の朝鮮族は、北朝鮮の人々の国外脱出に協力した吉林省延辺朝鮮族自治州の人々のことで最近よく知られるようになりましたが、ほかに黒龍江省、遼寧省、内蒙古自治区などを中心に約200万人が生活しています。中国への移住は、明の末期から清のはじめ(16世紀末期〜17世紀初期)から始まり、20世紀になって日本が朝鮮半島と満州を統治する過程で大量に移住しました。1944年の時点で166万人、日本の敗戦で50万人ほどが朝鮮半島に引き揚げ、残る100万人強の人々が現在の朝鮮族の母体となったのです。つまり、中国の朝鮮族の人々の歴史には日本が深く関わっているのです。
参考http://www.allchinainfo.com/ethnic/chaoxian.html(中国まるごと事典)

中国朝鮮族の暮らしを撮影し続けている韓国人の写真家柳銀珪(Ryu,Eun-Kyu)さんは、在日コリアン美術展アルン展2002に発表した作品にこんな一文を寄せています。それは、韓国にやってきた朝鮮族が韓国で差別されているのをよく目にしたということ、中国の朝鮮族の歴史を韓国人自身がよく知らないことが原因であること、自分が彼らの写真を撮り続けたいと思ったのはそのためであること。(中国と韓国の国交回復は1992年なのです)
http://www.areum.org/home/02/work_ryu/index.htm
http://www.areum.org/home/02/2002areum.html

また、柳氏の妻である戸田郁子さんも、次のように書かれています。
−−(日本敗戦後は)「朝鮮人は日本の走狗」と恨まれて、中国人に惨殺されたケースも少なくなかったと聞く。あるいは日本兵捕虜としてシベリアに抑留され、日本の捕虜が帰国して一年以上たってからようやく北朝鮮に送還され、豆満江をわたって家族の待つ中国に戻ってきたという者もいる。文化大革命の時にはそれが原因で、「ソ連特務」「朝鮮特務」「日本特務」いう三重のスパイ容疑をかけられ、「もう一度死ぬ目に遭った」という。−−
http://www.areum.org/home/reference/toda.html

私は、Sさんが、日本で韓国人から低く見られる経験を何度もしていることを知っています(在日コリアンの人々ではありません)。でも、今回の研究の背景を調べているうちに、自分が中国の朝鮮族にあまりに無知であったこと、知っていても何もわかっていなかったことに気づきました。

ある情報によると、このたびサイエンス誌に発表された韓国グループの論文は、ヒト胚研究に連邦助成を認めていないブッシュの方針に業を煮やした米国推進派の研究者らが、韓国の研究がここまで進んでいることを突きつけるためにサイエンス誌を利用した、とする見方もあるようです。ハーバード大学のES細胞研究センター開設や無償配布開始の情報もその流れで見ると納得がいきます。

何が犠牲にされているのか。冷静に見つめてみる必要があります。

2004.03.10 最相葉月(プロフィール)



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