本日23日に行われた第35回生命倫理専門調査会は、最終報告書素案の議論を中断し、薬師寺泰蔵会長が配布した「人クローン胚の作成・利用に関する暫定的結論の提案」なる独自の方針案に対し、賛成・反対・棄権を挙手によって決める強引な採決を行いました。賛成10名+会長1名の11名、反対5名、棄権なし。欠席5。おそらく朝刊一面のニュースになるでしょう。
委員たちは突然配られた薬師寺文書に驚くばかり。いや、そうではないようです。事前に今日は採決があると事務局から知らされた委員もいたのでしょう。最終報告書の議論に過去一度も参加しなかった女子栄養大学学長の香川芳子委員も突然顔を見せ、「会長の提案に賛成です」などと発言していました。自分の意見を過去に一切表明せず、採決にだけ参加して調子いいことをいう委員を信用できるでしょうか。というか、こういう人が国の最も大事な倫理問題を審議する委員会のメンバーであることをお知らせしておきたいと思います。(ちなみに、欠席した専門委員は、理化学研究所の相澤慎一、作家の曾野綾子、京大副学長の田中成明の3名。やる気がないのか、呆れて放棄したのでしょう。一年以上顔を見ていない人もいます。辞任を申し出たが拒否された人もいたと聞きます。また、これまで出席していた黒田玲子総合科学技術会議議員は欠席。こちらは、採決したくなかったのではないかと推測します)
こんなやり方は、中間報告書の前にアンケート調査を行って、多数派、少数派、などと色分けし内外から批判を受けた井村裕夫前会長と同じではないですか。クローン法の付則が定めた期限が6月末。調査会としてあせる気持ちはわかりますが、これほど重大な政策を多数決などという安易な方法で決めてしまっていいのでしょうか。
薬師寺会長は、「難病に苦しむ人々に光を当てたい」などと耳ざわりのいい言葉で、人クローン胚を作成する扉を開けることを前提としたモラトリアムをこの調査会最終報告の結論にしました。採決をとる前には、異議がいくつか出ており、鷲田清一委員などは、「結論先にありきで、容認の要件はあとで決めるということですか?」と目をぱちくり。「はい、そうです」と会長。これには、さすがに、傍聴席から失笑がもれました。そりゃそうです。人クローン胚は容認するという方針だけ先に示し、あとから、制度的枠組みや研究者の規制、女性への保護制度、倫理問題、などというこれまで喧々囂々の議論になっていた重要事項をつめていくというのです。本末転倒。これまで議論していたことはなんだったのでしょう。
たとえば、直近では、5月20日の調査会で、生殖医療の実態(研究目的での受精胚作成)が正確に把握されていないことが指摘されました。あれから、1か月、その調査報告が提示されることもありませんでした。結局、生殖補助医療の実態は調査会でも明らかにされなかったのです。ES細胞の研究も、クローン胚の作成も、卵子や受精卵を必要とするにもかかわらず、です。生殖補助医療は藪の中。98年からのクローン法の議論の過程で、卵子や受精卵を利用する研究が近い将来の可能性としてあると知りながらも生殖補助医療の問題を棚上げし、クローン人間を禁止することばかりに世間の目を引きつけていたことが、結局最後の最後まで影響を及ぼしているのです。(5/20の問題については、信州大学助教授の玉井真理子さんが以下に具体的に疑問を提出しておられます。
http://square.umin.ac.jp/~mtamai/tamago.htm)
ところが、この薬師寺案、よく読んでみると、モラトリアム解除はかなり厳しそうです。
・「人クローン胚の管理に万全を期すとともに、未受精卵の入手を制限し、提供女性を保護するための制度的枠組みの整備」
・「人クローン胚を用いた再生医療に向けた研究を進める意義について科学的検証を続ける枠組みの整備。この科学的検証は、人クローン胚に関する研究成果のみならず、動物を用いた研究や体性幹細胞研究の成果も含めた広範な知見に基づいて行うものとする。また、この結果に基づいて必要な場合には、研究中止の勧告も行い得るものとする」
・「人クローン胚の作成・利用は、当分の間、研究能力や設備等が充分整った限定的な研究機関において実施されるべき」
むずかしい解除要件です。技術はあるでしょう。しかし、上の要件を満たすのは至難の技で、推進派委員から、「人クローン胚容認といいながら、この要件ではなかなかそこまではいけない」という意見も聞こえたほど。これをもって「人クローン胚容認」といえるのかどうか。
さて、明日のニュースは、これをどう報じるでしょうか。
朝日新聞オンラインニュース04/6/23
http://www.asahi.com/science/update/0623/003.html
毎日新聞オンラインニュース04/6/23
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20040624k0000m040094000c.html
(文中、「昨年12月の中間報告で容認した研究用のヒト胚作成については、不妊治療研究に限定することが前回の会議で基本的に合意されている」はウソ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/science/news/20040624k0000m040174000c.html
読売新聞オンラインニュース04/6/23
http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20040623it14.htm
産経新聞オンラインニュース04/6/23
http://www.sankei.co.jp/news/040623/sha120.htm
さっそく、株価も反応。田辺製薬は京大再生医科学研究所長の中辻憲夫教授との共同研究をカニクイザルから行っており、人のES細胞を使用した研究を国内で唯一行っている民間企業です。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040624-00000009-fis-biz